野菜にオーガニック野菜があるように、はちみつにもオーガニックはちみつがあります。

「オーガニック」には、もともとの「有機(農薬や化学肥料を使わない)」という意味に加え、合成添加物、抗生物質、遺伝子組換え技術を使わない、など、環境や健康への配慮の要素も含まれると考えてよいでしょう。

有機認証機関は各国にあり、各機関が設けた規定をクリアした農産物がオーガニックと認定されています。
日本には「有機JAS規格」がありますが、はちみつは対象外となっているため、品質の如何にかかわらず、有機JAS認定の国産オーガニックはちみつは無いことになり(民間の認証団体(JONA)はあります)、日本で販売されているオーガニックはちみつは、基本的には外国産です。

有機はちみつ認証規定の一例として、ニュージーランドの有機認証団体「BioGro」の、はちみつに関する規定を見てみると、はちみつの品質、またミツバチの健康にかかわることとして、ダニ駆除についてはもちろん、巣箱を置く場所から洗浄に使う洗剤に至るまで規定があります。
例えば下記のようなものがあります。

●巣箱は有機的に管理された場所、あるいは自然地域に置き、3km圏内に農薬を使った農地や工場や都市など汚染源があってはならない

●禁止された薬剤でダニや病気の処置を行った場合、その群は全ての巣を新しくした上で12ヶ月間隔離しなければならない(その間のはちみつは販売不可)

●燻煙(養蜂の作業中、ミツバチをなだめたりするのに使用)に使う燃料は天然のものであること。また煙の使用は最低限にすること。

また、蜂児のいる巣枠からはちみつをとることや、分蜂防止のために女王蜂の羽を切ることも禁じています。(いずれの行為も、はちのわでは行っていません)

農薬は養蜂にも大きく関わっています。
大きくわけると、まずミツバチに寄生するミツバチヘギイタダニの駆除剤としての農薬。
そして農地などで使用される周辺環境の農薬です。
また、薬という意味では、ミツバチの病気であるフソ病を予防するとして、ミツバチに抗生物質を与えている養蜂家もいます。

【ミツバチヘギイタダニ駆除剤について】

現在、ダニは養蜂において大きな問題となっており、養蜂家は、何も対策をしなければミツバチを失う危険と隣り合わせです。

駆除剤は日本では現在2種類のみが認可されています。いずれも化学合成の薬剤です。
(しかし近年、ダニが薬剤に耐性を持ち、効かなくなっているという問題が発生しています)

海外では、化学合成の駆除剤以外に、ギ酸、シュウ酸、チモール、ホップなどの、自然界に存在する成分を使った駆除剤が認可されており、またハーブ、エッセンシャルオイルなどを使ったオーガニックな駆除方法の研究なども進んでいて選択肢があります。
しかし日本では認可の遅れもあって既存の化学合成の駆除剤が主流であり、一部の養蜂家が、独自にオーガニックな養蜂に取り組んでいるという状況です。

日本で認可されている化学合成の薬剤は、いずれもストリップに染み込ませてあるものを一定期間巣箱内につるしておくだけという手軽さですが(はちみつに残留しないよう使用期間が定められています)、オーガニックな方法は、取り扱いに注意が必要であったり、使用量や回数などを、状況に応じて養蜂家がその都度調整しながら処置を行う必要があります。
大規模養蜂の現場では、そのように手間のかかる方法をとることは現実的に難しいという事情も垣間見えます。
余談ですがこの点は、慣行農法と、有機農法や自然農法との関係に似ています。

例えば大量に均一の品質の作物を求められる大規模農家は、虫の駆除や除草に手間や時間をかけることは難しく、殺虫剤や除草剤などの農薬に頼らざるを得ない面もあるでしょう。
一方、有機農法や自然農法では、環境や体に安全な作物を作ることが優先であり、手間がかかる分、大量生産は難しくなります。(F1種のタネ※を使わなければ、作物の形も不揃いになります。安心安全な食べ物を求めるのであれば、消費者も、形や見た目にとらわれない意識が必要です)

【周辺環境に使われる農薬について】

日本は農薬使用量が世界でトップクラスであり、ミツバチの大量死や減少の原因であるとして各国で使用や販売が続々と禁止されているネオニコチノイド系農薬についても、日本だけは逆に残留農薬基準を大幅に緩和したりと、頭を抱える状況です。

ネオニコチノイド系農薬は、水に溶け、土に浸透して長期間残留し、虫の神経に作用する毒を発する農薬です。
日本では、米のカメムシによる被害(米にカメムシが吸った跡の斑点がつく。ほんの僅か斑点米が混ざるだけで米の等級が下がってしまうそうです)を防ぐために水田に空中散布されたり、野菜や果物やお茶などの畑に使用されるほか、松枯れ対策やペットのノミ駆除薬、建材などにも使用されており、使用量は増え続けています。

農薬が散布される地域では、事前に養蜂家に通知する(養蜂家は巣門を閉めるなどの対策をとる)ようにという通達も出ているようですが、それで完全に大丈夫なのかは疑問です。
養蜂を始める以前は美しいと思って眺めていた田園風景を、今では複雑な気持ちで眺めてしまいます。

農家の方も、斑点米の厳しい基準がなければ撒く必要のないものを、撒かざるを得ないというのは気の毒なことです。

また、種子法が廃止され、米国モンサント社が開発した農薬と、その農薬にのみ耐性を持った遺伝子組み換え種子のセットが、日本にも拡がっていく可能性が高まりました。
農薬の成分名は「グリホサート」です。商品名「ラウンドアップ」や別名のジェネリック除草剤として、個人でもホームセンターなどで手軽に買うことができます。

もちろん、モンサント社は安全性をうたっていますが、海外では、健康被害(地下水汚染によるガン、白血病、アレルギーなど)が報告され、使用禁止の流れになってきています。
昨年には、アメリカで、庭作業で除草剤ラウンドアップを使い続けた結果、ガンになったと訴えた男性に対し、モンサント社に約320億円の支払いを命じる判決が出されました(AFPBB News 2018.8.11)。

雑草(ミツバチなどの虫にとっては雑草も何も区別ありません)を根こそぎ枯らし、人体への影響も懸念されているものが、虫に影響がないとは考えにくいですし、家庭用として、殺虫効果をうたったグリホサート除草剤も販売されているのも気になります。
こういった除草剤を使ってほしくないというのが本音です。

そんななか日本では、グリホサート農薬に関しても、2017年には残留基準値を大きく緩め、2018年には、耐性対策にさらに強力な除草剤(主成分はベトナム戦争で使われた枯葉剤)と枯葉剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシも承認しました。
日本だけが使用拡大中という悲しい状況です。

このような状況では、ミツバチが飛んでいく範囲に農薬や化学物質が皆無というような環境は、日本では厳しいのでは…と気持ちが重くなります。

養蜂のやり方自体は養蜂家がオーガニックにチェンジできても、環境の問題は養蜂家だけでは解決できないので、自然環境を守り、ミツバチが農薬に接してしまう機会も減らすよう働きかけていく必要があります。
ひとりひとりが、できることに取り組んでいくしかありません。

国産オーガニックはちみつが、あたりまえに手に入る日本になるといいですね。

はちのわでは、化学合成の薬剤に頼らないことを目指して養蜂に取り組んでおり、成果が出てきたところです。
また、抗生物質は一切使用していません。かえってミツバチの免疫力を弱くすると考えるからです。
引き続き、薬に頼らない養蜂に取り組んでいきます。

なおはちのわでは、現在の蜂場で初めてはちみつを採った際に残留農薬(115種)の検査を依頼しました(検査結果PDF:891KB)。

結果は全てND(検出されず)で、ホッとしましたが、それで万事OKと思うことはできませんでした。
それは、この115種が農薬の全種類ではなく「農薬って一体どれだけ種類があるんだ!?」とびっくりしたこと、また、自分のはちみつだけがセーフならそれでいいとは思えないからでした。

以前に紹介した動画ですが、改めて掲載します。

今回は主に農薬と養蜂のことについて調べまとめましたが、その中で、F1種の採種にもミツバチが使われていることを知りました。

F1種は雄性不稔(花粉のできない=子孫の残せない突然変異)の個体から作られることが多いそうで、その受粉にミツバチが使われる、つまり遺伝子異常の蜜や花粉を利用することで無精子症のオスバチが生まれ蜂群が崩壊していくのではないかという、野口勲さんの仮説も読みました。

どんどんと複雑な闇の奥に入っていくようで、さらに長くなりそうなので今回はここで終わりとさせていただきますが、ご興味のある方は下記参考資料をぜひお読みください。

※F1種:一代交雑種、交配種。異なる性質のタネを人工的に掛け合わせて作った雑種の一代目。揃いが良く生育の良い野菜になる。この雑種からタネを採っても親と同じ姿にはならないため、毎年種苗会社からタネを購入しなければならない。現在世の中に流通している野菜や花のタネの多くがF1種。

対して「固定種」は地域で何世代にも渡って育てられ自家採種を繰り返すことにより土地の環境に適応し遺伝的に安定していった品種。野口種苗さんは固定種を扱っています。家庭菜園には固定種がおすすめです(「みやま小かぶ」は驚きの美味しさです!)。

2019.2.1

参考:
堤 未果(2018)『日本が売られる』 幻冬社新書
BioGro
有機農業ニュースクリップ:ネオニコチノイド農薬:各国の規制状況
一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト「ネオニコチノイド系農薬?」
野口勲(2011)『タネが危ない』 日本経済新聞出版社


コラム一覧