いちごがのったクリスマスケーキに代表されるように、日本では冬にいちごがある風景が当たり前になっています。
いちごは本来、春に実を結ぶ植物ですが、ハウス栽培により、旬以外の季節にも食べられるようになりました。
ハウス栽培のいちごの受粉には、ミツバチがポリネーター(花粉媒介者)として利用されています。
ミツバチはいちごの花の上をくるくると動いて花粉を集めることで、すべてのめしべにまんべんなく受粉をさせることができ、きれいな形のいちごができます。
人間が手作業で受粉させると、きれいな形にするのはむずかしいそうです。
しかし、本来働かないはずの冬も含めて、ビニールハウスという閉鎖空間で、植物はいちごだけという不自然な状況で働く事で、ミツバチは消耗してしまいます。
農家は養蜂家からミツバチを借りるか、花粉交配用としてベニヤやダンボールでできた簡素な巣箱にはいったミツバチを購入します。
買い取りの場合は、利用後には病気の感染源にならないよう、ミツバチが生き残っていても焼却処分するよう、指導されています。
ミツバチたちは片道切符で送り出されるのです。
真っ赤ないちごがのったケーキは心がおどります。
しかし私たちが冬にいちごを食べられるのは、ミツバチが文字通り必死で働いたからなのです。
せめて、感謝して食べたいものです。
いちごの他、日本では、ハウス栽培のスイカ、メロン、マンゴ、野外ではリンゴ、梅、さくらんぼ、かぼちゃ、ブルーベリーなどの受粉にミツバチが利用されています。
ミツバチは、はちみつなどを提供してくれるだけでなく、私たちの食卓を支えてくれています。
最近、アーモンドが健康にいいと注目されブームになっています。
アーモンドの世界産出量の約8割はカリフォルニアが占めています。
カリフォルニアの広大なアーモンド畑では、2月に一面真っ白な花が咲きます。
アメリカ全土から養蜂家たちが、その早い開花に合わせ、冬に大量の給餌をし強勢に仕立てた膨大な数のミツバチの巣箱を持って結集します。
ミツバチをポリネーターとして働かせ収入を得るためです。
アーモンドの木に花が咲いている様子は、桜によく似ています。
その花々を一つ残らず受粉させるため、またアーモンドは自家不和合(同じ木の花同士では実ができない)であるため、ミツバチが一度の飛行で2本以上の木を移動しなければならないように、アーモンド畑では常にミツバチの数を過剰に、過飽和状態にさせます。ミツバチたちは競争を余儀なくされます。
長旅で疲れ、競争で疲れ、アーモンドの花粉だけの食事に飢え、さらにさまざまな出自のミツバチ群の間でダニや病気への感染の危険にさらされます。
アメリカでは、アーモンド生産量の増加がミツバチの衰退と比例しているそうです。
自然界には本来、ミツバチ以外にも花粉を媒介する虫たちがいるのですが、自然の緑の減少や、農薬散布の影響で、ミツバチはもとよりそれらの虫が減っているという現実も無視できません。
また今後日本でも、種子法の廃止によって、除草剤耐性や害虫抵抗性をもった遺伝子組み換え作物が広がっていく可能性があります。
これは虫たちにとって、ひいては私たちにとって、よい状況なのでしょうか。
少なくとも、私たちが消費行動を見直したり、有機作物を買い支えたり、庭に虫たちが利用できる木や花を植えたり…といった行動をとってゆけば、最悪の事態は回避できるかもしれません。
2017.12
参考:
ローワン・ジェイコブセン(2011)『ハチはなぜ大量死したのか』文春文庫
マークス・イムホーフ(2012)映画『みつばちの大地』
ケビン・ハンセン(2010)ドキュメンタリー『NICOTINE BEES(ニコチンまみれのミツバチ)』
俵養蜂ライブラリ『ミツバチによるポリネーションの現状とネオニコチノイド農薬の影響』
俵養蜂ライブラリ『ミツバチによる花粉交配適用作物一覧』
日本養蜂協会『ポリネーション用ミツバチの管理マニュアル』